餅は餅屋『日本人が知らないウィキリークス』でウィキリークスを理解する

やはり餅は餅屋、毒は毒を持って制す、ハッカーのことはハッカーに聞け。
ウィキリークがどういう変遷をたどってきたかということや、ウィキリークスが及ぼした影響がどのように受け取られてきたかということは、本書の他の章や『全貌ウィキリークス』を読めばよくわかるだろう。
しかしやはり本書の真髄は「第4章 ウィキリークスを支えた技術と思想」八田真行(@mhatta)のパートだ。

日本人が知らないウィキリークス (新書y)
『日本人が知らないウィキリークス』 (新書y)
小林 恭子 (著), 白井 聡 (著), 塚越 健司 (著), 津田 大介 (著), 八田 真行 (著), 浜野 喬士 (著), 孫崎 享 (著)


まずは第4章の目次から(アマゾンにもなかったので)

│第4章│ウィキリークスを支えた技術と思想 〈八田真行〉*1


技術と思想。技術は常に人類の思想を変えてきた。いや、人類は技術によってしか思想を変えてこなかった、と言ってもいい。


ウィキリークス@wikileaks)は決して「ハッカー集団」ではない(これは明確に違う。ウィキリークス自体が情報を盗んでいるのではない。彼らは正確には、「内部告発」を安全にできるよう手助けしているのだ*2)。そしてウィキリークスが「新しいメディア」であるという捉え方もまたそれだけでは足りない。



ウィキリークスの技術(キーワードは「匿名」)
まずはウィキリークス内部告発者にどういったサービスを提供していたかを正確に知る必要があるだろう。ウィキリークスを知るキーワードは「匿名」だ。詳しくは本書に譲るが、いかにウィキリークス内部告発者の記録を残さずに保護しているかを理解することをなしに、ウィキリークスの善悪を論じることはできないだろう。なぜならばその技術に立脚した思想が挑んでいるものは、近代最大の「善悪判断装置」兼「善悪強要装置」でもある「国家」なのだから。



ウィキリークスの思想(キーワードは「サイファーパンク」)
ウィキリークスが復興させた思想は「サイファーパンク」と呼ばれる。

サイファーパンクは、軍や政府機関のみならず、世界中の一般人が強力な暗号を利用できるようにすることで、国家による検閲から私人間のコミュニケーションやアイデンティティを秘匿し、プライバシーや匿名性を「技術的・論理的に裏付けのある形で」確保すること、ひいては国家が個人に及ぼすコントロールを極力排した自由で開かれた社会を目指すという思想


要するに「政府とかに管理されたくねーし」っていう思想だ。
なぜこれほどまでに大きな話になるのか。それは「暗号技術」があまりに強力だからだ。1つの爆弾が殺戮する人間の数よりも、米軍の戦略に関する1つの情報がリークする(漏れ出す)ことによる被害のほうが甚大だろう。暗号技術の強力さとは、そういうことだ。



暗号技術は「武器」
この暗号技術はその強力さから、例えば米政府においては「武器」であると見なされている。そして戦争という非日常のみならず、日常においても警察が治安維持するために暗号技術が重要視されている。ウィキリークスはこの、国家が暴力を振るえる存在であるという聖域を侵そうとしているのだ。



著者: 八田真行について
オープンソースに造詣が深い八田真行さん。ハッカーだ。

八田真行のホームページ


ご本人のホームページを見ても、「よく分からない」というのが正直なところだろう*3
しかしとにかく、インターネットがこれほど自由に使えているのは、その背景にオープンソースがあるからだ。ウィキリークスがえぐり出した思想の深淵にはこの「オープンソース思想」が鎮座している。ウィキリークスは止まらない。ジュリアン・アサンジを封じてもオープンリークスのような第2、第3のウィキリークスが出てくるだけの話だ。


未来のことはハッカーに聞け。


@ymkjp





ised 情報社会の倫理と設計 設計篇
ised 情報社会の倫理と設計 設計篇
僕が八田さんを初めて知ったのはこの『ised』だった。刊行記念講演会も行ったので生・八田も見た。



全貌ウィキリークス
全貌ウィキリークス
ウィキリークの創設者ジュリアン・アサンジに密着取材して著されたのが本書。アサンジ氏の「主張」を聞くならば一次情報源に近い本書が一番でしょう。

*1:目次より引用

*2:と自ら説明し、周りからもそう受け取られている(クラッキングはしていない、と)

*3:僕は「オープンソース入門」的な授業をとったことがあるが、どういうことが書いてあるかということだけしか分からない