公務員志望をやめます

周りに惑わされないようにエントリーに書き留めておきます。


キャリア設計:
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ビッグヒストリーといえば大げさ。しかしキャリア設計は時代の大きな流れを読まなければならない。epoch-makingしていくのは、誰か。確かに僕には公務員という選択肢がありました。所属する大学のゼミも公務員志望率が非常に高いところでした―先生の教え子には宮崎県の知事(画像)。

無理とは分かっていても時代の大きな流れを読んでみたいものだ。現在の日本がものづくりによってあるというのは一般的な認識ですが、しかしこれは政府が護衛船団方式で金融や造船を囲っていた間に政府による規制が少ないものづくりの産業に花が咲いたのです。規制のない産業が発展する。これはどこの国に、どの時代においても言えることです。なぜ日本が当時の製造業大国アメリカに勝つことができたか。それは規制が少なかったから。現在の元・ITベンチャー(グーグル、アップル、日本ではソフトバンク楽天)を例示するまでもない。「政府主導でものづくり立国できた」となんとなく思っているかもしれないがそれは違う。しかし日本における住宅政策は評価するひとが多い。これは極めて大きな成功を収めたといわれている。マイホームの獲得へ向けて異常な額の住宅ローンを借りさせ、その信じられないほどの額の住宅ローンという鞭をもってして日本人を働かせ、そして銀行は大企業へ融資して大企業は設備投資へお金を回した。そういうモデルだ。確かにそれらすべてを否定することはできない。この日本人の奴隷のような働きによって高度成長が引き起こされたのは事実である(そしてその成長をバブル化し異常な速度で収縮させたのも日本政府の金融政策だった)。

このように政府主導の住宅金融政策は大きな成功を収めた―大きな代償をともなって。代償とはこの住宅金融政策によって、長時間労働とゼロリスク信仰を日本人にもたらしたことだ。住宅ローンという鞭で日本人の感覚は完全に麻痺した。そして恐ろしいことに、いやそれは当然の結果なのだが、GDPは―日本人はそのGDPを自らを誇ってやまなかった―1人あたりGDPに換算すると国際的に通用するものではなかった*1。日本が誇ったGDP、これは日本人が余りに多大なプライバシーを労働に捧げている裏返しの"成果"だった。
そして住宅金融政策のもたらした2つめの代償「ゼロリスク信仰」―これは信じられないほどの額の住宅ローンで余りにも大きなリスクを背負っている裏返しである。逆説的に感じるかもしれないが、住宅ローンによって、敷かれたレールの外にはみ出すようなリスクテイクは完全に封じられた。なぜならば住宅ローンの貸し手である銀行―Huge VCと呼んでもいい*2は担保を持つ大企業にしか貸さないからだ。皮肉なことにそのリスク回避の傾向はまるで"親方"の背中そのものだった。こうして日本人は住宅ローンというその余りにも大きなリスクを補うかのように貯蓄しかしなくなった。預貯金というゼロリスク貯蓄―そしてゼロ金利!―しか行わなくなった。なぜゼロ金利が続くのか。日銀の白川総裁がお金を刷ってケチャップを買わないからか? 金融政策にまずいところがあるというのは適切な指摘だ。しかしもっと根本的には住宅金融政策の副作用によって"金融リテラシー失調症"に陥った国民がゼロリスクにすがりついているからだ。ひどい副作用である。

さてキャリア設計である。とりあえず公務員志望はやめた。ゼロリスクは確かに魅力だが、それは退廃をもたらすものかもしれない。「お役所仕事は能力がつかない」と社会人は口を揃えてそう言う。日本政府が潰れることは実際はないだろう(出向先が行財政改革でなくなることはあるかもしれないがそんなことは予測不可能だ)。しかし個人として政府にすがることは避けたい。そうすれば民間畑を選ぶことになる。業種はなにか? 日本はもはや「ものづくり大国」ではない。少なくともそう思っておいたほうがいいことは確かだ。かつて規制を抜けて成長したベンチャー企業―ホンダやソニー、松下―は先取気鋭とは言い難い。ならば素材産業はデザインやブランドが関係のない純粋な技術力勝負だからしばらくは強いか。しかしデザインやブランドは時代をつくってきた。いろいろ考えると業種はどうすべきか迷う*3が、お役所仕事が僕のキャリアの選択肢から外れたことは確かだ。「お役所でぬるぬる仕事して、たっぷり読書や映画に時間を費やす」というありしひの計画、僕のためにならないどころか、社会のためにもならないと気づいて。


※余談だが、「ものづくり大国ニッポン」というワードを聞いて快感してしまう方は宋文洲と田原総一朗のこの対談本を読んで「大国志向」の良くない点を確認したほうがいい。確かに宋文洲の本で「例え話ばっかじゃん」と思ったかたはいるかもしれない(僕もその一人だ)。しかしこの対談本は確かに良本で、いい視点を与えてくれた。



Written by 「公務員志望をやめます」って文章の構造自体がネガティブだけど、実態は攻め攻め@YMKjp (Twilog)


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ビッグヒストリー…ジャレド・ダイアモンドに代表される書き手による人類史をめぐる著書の数々。今回のエントリーはそれらに遥かに及びませんが「マクロな視点で振り返ってみるぜよ」っていう姿勢を習いました。

*1:一人あたりGDP世界ランキング - 社会実情データ図録

*2:Wikipedia: ベンチャーキャピタルにも指摘がある

*3:僕は自分の本棚を見て、関心が広くそして残念なことに薄っぺらいことに戸惑っている - 僕のブクログ