火災死激増、『火災の科学』

近い将来に火災による死者が激増する見通し。
もちろん、お隣りの国、中国の話だが ―というわけではない。正真正銘、日本の話。

火災の科学―火事のしくみと防ぎ方 (中公新書ラクレ)
『火災の科学―火事のしくみと防ぎ方』 (中公新書ラクレ)
辻本 誠 (著)

目次
第1章 火災を知るー意外と知らない危険性(1970年代は火災惨事ラッシュ目前に迫った「火災死爆発」 ほか)
第2章 火災を科学するー世界最高水準の実験・研究で解明(火災とは何だ? 体系化困難な火災現象 ほか)
第3章 火災と闘うー日本とアジアの生命を守るために(社会システムとしての火災安全対策モデル火災反映し「要求性能」見直しも ほか)
火災を理解するための用語25


火災報知機の設置が進んでいるのに、なぜ?

いくら柔構造を改善し、安全な器具類を普及させ、早期発見の感知器を取り付けてリスクを低下させても、世代人口という分母の巨大さがこの努力をのみ込んでしまい、死者の実数としては激増することになってしまうのである。

こんなところにも高齢化の波が。
大震災後の僕たちには実感豊かだが、火災に関しても我々がとることのできる最良の防衛手段は「逃げるが万事」。巣を壊されたアリのように散り散りに逃げることしかできないのです。かっこわるくてもいい、いちもくさんに逃げる。なのにも関わらず、特に高齢の男性は、いったん逃げて妻子の安全を確保したあとに、火を消しに屋内へもどり、そのまま亡くなるケースが非常に多いという。



高層ビル安全神話
鉄は火に弱い。ぐにゃりと曲がっちゃう。高層ビル、安全だと思い込んでいませんか?
原発安全神話が日本に大きな損害をもたらした(もたらす)ことはますます超絶的に実感せざるを得ない状況になってくるのだと感じていますが、そういった「想定外」をできる限り「想定内」に食い込ませていけないといけない。危機管理というのはそういった地道な作業の積み重ねであり、そして本書で指摘されているのは「高層ビル安全神話」。


  • 橋の下のホームレスのテントの火災で鉄骨の橋が曲がる
  • 断熱のための外壁パネルで急激な延焼


など、すでに想定外のヒヤリハットに収まりきらないヒヤリハットが蓄積されていっている。あの米国9.11でWTC*1が倒壊したのも、飛行機の激突により防火材が剥がれて鉄骨がむき出しになり、そこで生じた火災が原因に数えられているというのだから火災は侮れない。
原発問題で「正常性バイアス」の指摘をちょくちょく聞きましたが、1956年から商用での運転開始となった原発よりも、人類が少なくとも12万年前から慣れ親しんだ「火」というものへの正常性バイアスは強いに違いない。
住居商業スペース混合のビル(六本木ヒルズなど)や、ショッピングモール、駅ビル。
新しい建築形態に新しい火災あり。油断大敵ッ!


@ymkjp

*1:日本の建築ポリシーなどは細かく異なる。詳しくは本書を。