理論と空気で二度美味しいウマウマ本 - 『教えて! カンヌ国際広告祭』の感想

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『教えて! カンヌ国際広告祭 広告というカタチを辞めた広告たち』
佐藤達郎(@hinasoyo)

いやぁ、おいしかった。


食後、もとい読後の感想の前に。
テレビ局が録画機のCM飛ばし機能に対して怒っているそうですね→ 民放連、機器のCM飛ばし機能「看過できない」|日本経済新聞

そりゃ広告業界イライラするのはわかります。総広告費の対GDP比では'07-09の2年間で1.36%から1.25%へと下げている*1のです。日本のGDP4.91兆USドル(2008)*2ですから控えめに見積もっても下げ幅だけで5400億円減ですか。怒る気持ちもわかります。が、怒りの矛先が違うのでは?
ということで本書の感想。



「非広告型広告」の時代
Adアボイダンス(広告忌避)。Web時代の「無視される情報量の爆発的増加」においてはテレビ広告も例外でない。そこから導かれるのは「広告を打つ場所などを考えつつ話題のなりやすさで勝負する!」というもの。これが「非広告型広告」。なるほどなるほど。―しかし、こういった理論はすでに他所で言及されているようで、僕のような広告の素人はともかくギョーカイ人にとっては耳タコな話に違いない。しかし、そんなギョーカイ人ですら満足させてくれるというのが本書のほんとうの魅力である。



行間から伝わる「空気」
カンヌ国際広告祭という各国からトップクラスのクリエイターが集まり1日にCM600本を審査する場。そういっためちゃすごいギョーカイ人が集まった場はどう会議されたのか。プレゼンもうまく、各々それなりに英語力もあるはずの彼らにどうして発言しないひとがいたのか。審査の基準、「欧」と「米」の対立、などなど。会議に参加した一人ひとりの名前にまで言及して指摘するというのは著者にしか書けない真に貴重な内容でしょう。これは広告のギョーカイ人でもぜひ知りたい"情報"なはず。そして2007年、カンヌの「空気」が選んだグランプリ作品が大変な物議をかもしたという。それがこのゴリアCMであるが、広告クリエイターをしてこう言わしめたという。

「これがグランプリなら、オレは明日からどうやってアイディアを考えればいいのよ」


広告の文法という文法をまったく無視したこの作品。Web2.0世代のわれわれもこの作品によって提示されたパラダイムシフトを踏まえることを要求されているのではと考えさせられる一冊でした。

ということで、理論と空気で二度美味しいウマウマ本でした。ごちそうさまです。



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Written by 空腹@YMKjp

*1:日本の広告費の推移(社会実情データ図録)

*2:GDP」と検索するだけでトップページに表示。Google先生はますます便利になりますねぇ。