脱・評論厨: 『使える! 経済学の考え方』

著者「これこそが世界標準の経済学。景気とか株価、税金、為替とかなんとか言ってる奴は評論家厨」
とは言っていませんが。

『使える!経済学の考え方』(小島寛之)
『使える!経済学の考え方』(小島寛之)

目次 - 著者のブログより

序章 幸福や平等や自由をどう考えたらいいか
第1章 幸福をどう考えるかーーピグーの理論
第2章 公平をどう考えるかーーハルサーニの定理
第3章 自由をどう考えるかーーセンの理論
第4章 平等をどう考えるかーーギルボアの理論
第5章 正義をどう考えるかーーロールズの理論
第6章 市場社会の安定をどう考えるかーーケインズの貨幣理論
終章 何が、幸福や平等や自由を阻むのかーー社会統合と階級の固着性


世界標準の経済学
ということで、タイトルの"使える!"というのは平易な言葉ですが、著者からの「これこそが使える経済学なんだよ」というメッセージになっている。つまり、景気とか株価、税金、為替とか言ってても使われることはあっても使えるようにはならないんだよ、と。
とは言っても、「(すぐに)使える!」かは微妙。そういうテイストの本がご入り用であれば『経済とお金儲けの真実』飯田泰之坂口孝則)の方をオヌヌメ。こちらはその本の前書きにある通り、成功者の自慢本でもなく、格差煽り本でもない、かといって安易なハウツーでもない、「(まともな)(すぐに)使える本」になっている。マクロ経済学者ならば口が裂けても言わないような「儲かる商売」から、就活生(およびその予備軍)への指南まである近所のおばちゃん的親切設計になっている*1



硬派経済学
さて、『使える! 経済学の考え方』であるが、本書は「超賢い人たち」の大きな潮流を知っておくことの意義を感じられるような内容になっている。具体的に言えば、「ベンサムピグーロールズ(+アマルティア・セン)」という流れと、「ちゃんと動いている(動的な)ケインズ経済学」の再評価も知ることができるようになっている。それも、数理的な背景をも踏まえつつ。これは著者である小島寛之ならではの貴重なアプローチである。
そして「超賢い人たち」の大きな潮流を知るとなにがいいのかと言えば、1つは「世界標準の経済学」を知れるという良さと、もう1つ、「超賢い人たち」でも論理的にはここまでしか到達できないんだという(爆)的な舐めた感を持つことができるようになるということ(それを不確実性へ飛び込む勇気に変えられればいいと思う)。



ポスト・ロールズ
「世界標準の経済学」を舐め腐ったあとで、本書が2009年の刊行だということを思い出したい。これは何を意味するのかといえば、「Before サンデル」、つまり日本のサンデルブーム以前だということ。『これからの「正義」の話をしよう』以前だということである。
サンデルはロールズ『正義論』への正統な批判でも知られることから、本書のあとにはブームのおかげで日本語環境でも手に入りやすくなったサンデル本を読んでみるといいかもしれない。


YMKjp(economical animalではなくeconomic animalでありたい )

*1:僕はAmazonキャンペーン期間中に買ったが、どうやらそちらは終わってしまったよう

ホリエモン著『拝金』から学ぶ小説の書き方

欲望の先にはどんな欲望があるのか。その欲求階段を主人公と追体験できる欲望突き抜け本

拝金
『拝金』(堀江貴文)


これぞ小説の真髄ぞ
「小説読んでる暇あったら評論系読んだほうがよくね?」をくつがえす小説。実用重視な人でもニコニコ読める小説が本書です(さらに小説化したほうが売れるのだから著者側もにっこり)。あの時代を揺り動かしたホリエモン自身による「ライブドア事件」への視点、そんなの本当はフィクションばっかりだったなんて可能性もあるのに、楽しめちゃうんですよね。


小説の書き方
事実は小説より奇なり。やっぱり事実をベースにして物語をつくっていくほうがおもしろいはず。そういう意味で本書は参考になります。例えば、"オッサン"。実際に著者を成功まで駆り立てた様々な人を凝縮したような人物です。そういったギミックによって物語を平易に、そしてスピード感を失わないように工夫されていておもしろく読みやすい。この「おもしろく読みやすい」という原則こそが小説がエンターテインメントとして目指すべきところ。つまり、マンガっぽいということ。そして実際、著者自身、マンガっぽく書くというのを意図的に書いているようです。


また続編『成金』もでるそうで、なんとあのdankogaiも登場するらしい。買うっきゃない。


YMKjp(お金ユーザー)

水木しげるのマンガ悪魔本: 貸本まんが復刻版 悪魔くん

貸本まんが復刻版  悪魔くん  (角川文庫 み 18-16)
『貸本まんが復刻版 悪魔くん』(水木しげる)


この悪魔、見たことある!
欲望につぶされる凡庸な人間の小ささと、大きな夢が中絶される世の中の不条理さとを描く。
召喚された悪魔のキャラ設定の仕方が実に老獪で、「これは絶対に実在する」と思わされる。

つまり、悪魔は人間のズルイ心に住みつくものであり、それはときに素晴らしい才能やチャンスを台無しにするということ。そして悪魔とは、名門大学に進学し、大企業で将来を有望視されるような「実に凡庸な」人間にこそ棲みつくものであるというのが著者の強烈なメッセージである。


マンガ『20世紀少年』を読んだことがなくとも(「エロイムエッサイム」の元ネタである)、ドラマ『ゲゲゲの女房』を見ていなくても、水木ワールドを堪能したい方にはぜひともオヌヌメしたい。



YMKjp(元祖小悪魔)

アニメ史、アニメ師、アニメの死?: ぼくたちのアニメ史

2007年の『ひぐらしのなく頃に』の放送中止騒ぎを話題にし、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の後半の乱れを惜しみ、『銀魂』のギャグに舌を巻いて、『エヴァ』綾波レイに萌えてる人なんていくらでもいそうだよね。当たり前すぎるくらい。
じゃあそれが昭和一桁世代の人だったら? ビビるよね。
綾波レイのマウスパッドを愛用する75歳。本書の著者はそういう人。そしてそういうものをつくったひと。
つまり、本人降臨

ぼくたちのアニメ史 (岩波ジュニア新書)
『ぼくたちのアニメ史』 (辻真先)


辻真先というアニメ(師|史)
本書の著者である辻真先(@mtsujiji)はまさに「アニメ」をその黎明期からつくってきた人物である。
鉄腕アトムデビルマン巨人の星サザエさんドラえもん
携わったアニメが比喩ではなく本当に「数えきれない」人。


アニメはもうそんなにも振り返られる存在になったのだ。
アニメ史から、本書から、学び取れることはもうすでに十分にある。

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クソ良書: ウンコに学べ!

ウンコに学べ! (ちくま新書)
ウンコに学べ! (有田 正光/石村 多門)


第1章 あなたのウンコはどこへ行くのか

  • 海に捨てられるウンコ
  • カウボーイも英国紳士も海まで運ばず川に捨てた
  • 下水処理の手品の真相

第2章 水田―土と水とウンコのバラード

  • ペリーが驚いた世界一清潔な国
  • 生きるとはウンコを食べることである

第3章 ウンコの黄金時代と糞まみれの経済

第4章 ウンコをしない自立とする連帯

  • エコノミーからエコロジー
  • 陰翳礼賛
  • ウンコをひらない身体
  • 学校でウンコができない子どもたち

第5章 ウンコに学ぶ環境倫理


平易に科学し、手広く歴史する
なんという良書。奇をてらったタイトルに感じるが、本書の内容はその題材たるウンコと同様に「実用的」である。無意識に忌避される「声なき肥え」に光をあて斬新な切り口で平易に科学し、手広く歴史する。両著者はまさにトイレの神様、もとい新書の神様。

さらに嬉しいことに書き手にそこはかとない余裕があって、それが軽妙な筆致に表れていて「読ませる」文章になっている。さらにさらに特筆すべきはその充実した参考文献目録。こういったキワモノ書籍につけられた目録ほど多くを学びうるものはない。


いやあ、脱糞しててもドヤ顔で自信持って言えますよ。「新書ってこう書くべきでしょ?」

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Amazonの思想が知れるのは(今のところ)本書だけ!: 潜入ルポ アマゾン・ドット・コム

潜入ルポ アマゾン・ドット・コム (朝日文庫)
潜入ルポ アマゾン・ドット・コム: 横田 増生


【目次】(「BOOK」データベースより)
第1部 アマゾン・ドット・コム潜入

  • 密かに急成長するアマゾンジャパン
  • アマゾン・ドット・コム上陸前夜
  • アマゾン心臓部・物流センターの実態
  • 空虚な職場に集う人々
  • アマゾンの秘密主義を恐れる出版業界
  • 日本で躍進した本当の理由
  • その強さの裏側にある底辺
  • アマゾンの目指す「完成形」

第2部 その後のアマゾン・ドット・コム

昨今のfacebookなどの動向をおっていても分かることですが、ITベンチャーは総じていわゆる「秘密主義」です。そして本書があつかうAmazon.com社も秘密主義です。そんな中、「Amazonが知りたい」という人に向けた日本語で優良なルポといえば著者の前著『アマゾン・ドット・コムの光と影』くらいしかありませんでした。そしてそんな前著から大幅に加筆(2部構成に)されて文庫版で刊行されたのが本書『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』です。



そもそも単行本から文庫化される本には圧倒的に良書が多いですが、本書もその例外ではありません。そして変化のスピードが早いIT業界にあっては文庫化のさいにはすでにその内容が古くなっていがちですが、本書で扱っている内容の大部分が創業時の経緯やその思想などであるため陳腐化はしていません。むしろ、Amazonが発展すればするほど本書の歴史的な価値はあがっていると言ってよいでしょう。少なくとも、ジェフ・ベゾスが自伝を書くその日までは:P

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被差別戦略仮説

高校の英単語の復習。


「差別」とは

  • difference(選択の際の)
  • discrimination(人種の)


日本語では「区別」と「差別」で、「差別」は悪い意味で使われる局面を指しますよね。


例えばこんなふうに―


掃除の時間
先生「じゃあ俺君、ゴミ袋持って行ってちょうだい」
俺「えー、なんでずっと俺なの? 女ちゃんがいるのになんでずっと俺なの? 差別だ!
先生「いいえ。俺君のほうが力強いんだから。これは差別じゃなくて区別よ
俺「えー。差別だ、差別だー」
女「いいわ。私がいくわ」*1


この例で問題になっているのは、男女差別とかもしくはチカラとかの身体的な特徴だと区別していいのかどうかという倫理観です。
ですが今回「差別を市場にのせる」というのはそういう倫理の話ではなく、経営戦略っぽい話です。

*1:小学生のときは男の子より女の子のほうが力が強く、精神性も大人ですよね

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